Story
幼馴染と再会を果たしたのは、引越して二度目の初夏だった。
語るべきことは幾らでもあった。別れてからの時間、互いの変化、同じ場所へ至るまでの道のり。けれど、何故だかそれら全てを喉の奥に留めて、空白の年月をまるでなかったもののように並んで歩き出す。意味を含まない、ただ触れ合うようなやりとりは、守り合っていたのか、探り合っていたのか。
相変わらずだね――そう言って笑った、その一瞬の間を縫うようにしての、一言。
「そっちは、どうなんだよ。……綾乃は」
兄の名前に、動じることはなかった。
「こっちも、相変わらずだよ」
逃げるようにやってきた土地で、しかし変化らしい変化もなくただ過ごしてきた日々。新しいはずの環境に、過去を纏う人物が介入してきた。
かつて神童と謳われた兄と、そのつまらない妹の話。